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「記憶喪失…っ!!」「…うむ」いつもと変わらない昼下がり。今日は私の誕生日だからと、夜は外食と話しをしながら歩いてたのに。ご多分にもれず、こんな日までも街行く美女に目を奪われ、尻尾をフリフリ。人の忠告も無視し、危うく後をつけて行きそうなトコロを小突いた拍子。それをさらりとリョウがかわしたがために、私は危うく歩道橋の階段から落ちかけて。「危ない…っ!!」と、寸でのところで私をこちら側へと突き飛ばし、かばってくれたリョウが、階段下へと転がり落ちてしまった。打ち所が悪かったのか、どこか朦朧とするリョウをミニに乗せ、急ぎ教授宅へ。そして不安は見事に的中し…教授から先程の診断結果を得たのだった。

「頭を打った時に、瞬時、記憶が飛んだんじゃろう。ココが新宿だというコトはわかっておるし、己がCHだというコトも、冴羽リョウという名前もちゃんとわかっておる。まぁ、記憶喪失といっても、軽いもんじゃ」そんなに軽い程度なら、いったい何の記憶が飛んでいるというのだろう。どうしてそんなに複雑そうな表情(かお)をするのだろう。思いは渦巻き、「じゃぁ…」と、問い掛けた私の視線に、教授はしばし、口ごもり。そしてしっかと私の目を見据えて口を開いた。「落ちついて聞くのじゃぞ、香くん。ヤツは…リョウはな、お前さんという人の記憶を、無くしておるんじゃ」「…?!」

今は目が覚め、病室でかずえさんと会話を交わす程に落ち着いたというリョウを、扉の隙間からこっそり覗き見る。「いやぁ~かずえちゃんたら、相変わらずきれーなお手々。リョウちゃん、なめなめしたくなっちゃぅ~♪」「ん、もう…冴羽さんたらっ!!階段から落ちたっていうケド、全然平気そうねっ!!」うーん…見た限りじゃぁドコにも支障はなさそうだケド。私、もしかして教授に担がれた…?頭にクエスチョンマークをバラ巻きながらも、室内の様子をそっと盗み見てる、そんな私の視線に、リョウが気付いた。でもその瞳の色は、まるで見知らぬ他人を見るように素っ気なくて。「やぁ…ドコのもっこりちゃんかな?」…という、余りなセリフを投げ掛けられてしまった。

普段女扱いされないだけに、もっこりの対象として見られたのはさすがにちょっと嬉しいケド…って、いやいや。でも…でも、こんなのリョウじゃないもんっ。黙り込んだままの私に不思議そうな視線をよこすリョウを振り切って、かずえさんの呼びかけをも振り切って。心に渦巻く思いの整理がつけられなくて、その場から逃げるように走り出した。

どうしてこんなことになったの…?ううん、そんなコト、今更悔やんだってしょうがない。命に別状がなかっただけ、たいしたケガがなかっただけ、よかったじゃない。それより今は、記憶を失ったリョウをどうするか、が先。もし今、リョウがこの現状のまま、仕事の依頼が来たらどうする?自分が冴羽リョウだというコトも、CHだというコトも覚えてるらしいケド。でも…私というパートナーの存在を忘れて、コンビが組める?それとも私なんか邪魔者の足手まといで、一人で楽々片付けられる?「私…私の記憶…」現実に目を向けて、少しでも記憶喪失のコトから目をそらしたかったのに。口にして、新たに焦燥感と喪失感が沸き起こる。

どうして他のコトは覚えてるの?どうして私のコトだけ、忘れちゃったの?どうして?どうして…?教授やかずえさんたちの手前、精一杯虚勢を張っていた心のタガが外れ、視界が揺らいだと思った次の瞬間には、冷たい流れが頬を伝った。「ど…して?どうして…リョウ…っ!!」新宿から少し離れただけというのに、驚くほど広い教授宅。リョウの休む病室からは遠く離れた日本庭園の片隅で、とうとう息ついて立ち止まり。池に架けられた石橋の上に膝ついて、そのまま思いのままに泣きじゃくった。

「…香さん…」激しい鳴咽の中、背中に感じるやわらかな気配に振り向けば、そこには先程までリョウと談笑していたかずえさんが立っていた。「…か…ずえさん…」恥ずかしいところを見られてしまったと、慌てて涙を拭うケド、それはあとからあとから流れ出て、どうにも留めるコトが出来ない。そんな私に、かずえさんは"わかってる、何も言わなくていい"とばかりに、悲しそうな微笑みを浮かべて首を振った。「…いいのよ、香さん。無理しないで。こんなコトになって、驚くなって方が無理よ。誰だって悲しくなるわよ…泣きたくなるわよ。それがましてや、最愛の人だったら、尚更…でしょ…?」「…かずえさん…っ」泣きすぎて泣きすぎて、かすれがちな声。そんな私の肩を、まるで幼子をあやす母親のように、かずえさんは優しく抱き寄せてくれた。

「ねぇ…香さん?今回のコトは、確かにひどく悲しいコトだけど。でも…でも、ね?冴羽さんは香さんのコトが好きで好きで…あまりに大事過ぎたから。それだけ冴羽さんの中で香さんという人の占める部分が大きかったから…。だから香さんの記憶だけが抜け落ちちゃった…そう思わない?」まだ赤く泣き腫らした目できょとんとする私に、かずえさんは優しく微笑んで。そのまま近くの東屋に導いて、そこに私を腰掛けさせると、慈愛に満ちたあたたかな瞳で私をじっと見つめた。

「大事に大事に思いすぎてたから…自分の身が危なくなったその瞬間、いの一番にあなたのコトが思い浮かんで。そしてそのまま、打ち所が悪くって、ぽろっと抜け落ちちゃったのよ」「…でも…そしたら、いつ記憶が戻…」気ばかり焦る私に、かずえさんは"大丈夫よ"とばかりに、優しく肩を抱いてくれた。「大丈夫…冴羽さんを信じなさい。今までどんなコトにだって、立ち向かって勝ち抜いてきた人でしょう?頭部強打による、一時的な記憶の混乱は、誰にだって起こりうるコトなんだから。ただ冴羽さんの場合、それがちよっぴり長引いてるだけ。今にきっと、心配してたコトが嘘みたいに、呆気ないくらい記憶が戻るわよ」

ゆっくりと私を宥めるように話し掛けるかずえさんの言葉は、まるで砂に海水が染み込むようで。敵を威嚇する逆毛をたてた猫みたいだった私の心が、穏やかに凪いでいくのを感じた。「だから…ね?香さん。冴羽さんが元に戻った時、香さんが沈んでいたら、悲しむわ?冴羽さんが大事にしてる香さんの笑顔こそが、冴羽さんを元に戻す、最良の薬なのよ…?」ゆっくりと、噛んで含めるような言葉が心にしみる。そう…そうよ。リョウの傍で泣いてたりしちゃ、何の解決にもならないわ。くよくよしてたって、リョウの記憶が戻るワケじゃなし。どうにかして"今この時(現状)"を乗り切らなきゃ。そしてリョウの記憶が戻った暁には、ぎゃふんと言わせてやらなくちゃ。"一人でよくやったな"…って、言わせなきゃ。
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【2010/03/31 20:23】 | 未分類
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