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そんな決意にようやく心を落ち着かせ、改めてリョウの前に立とうと病室へ向かえば。ベッドに半身を起こし、ぼんやりと窓の景色を見ていたリョウに出迎えられた。「…よっ。香ちゃん、だったかな」と、意外にも素直に名前を呼ばれ、拍子抜け。でもその言葉尻にも表情にも、いつものリョウらしさは見られなくて。あぁ、まだ記憶は戻ってないのか…と、そっと吐息を落とした。「…聞いたの?かずえさんに」どうにかして笑みを浮かべながら、誰もいない病室の、ベッドの脇のスツールに腰掛ける。「あぁ…。俺のパートナーだったんだって?」本人には何等意識はないのだろうケド、"だった"という過去形にされたコトにちくりと胸が痛んだ。「記憶…まだ?」「…まぁね。さすがにそう簡単には信じられないだろ?もし本当に俺のパートナーだったってんなら…キミは俺のコト、何でも知ってるのかな?」嫌味ったらしく、意地悪げな瞳を向けてくるのは、まだ私をパートナーだと認めてない…信じられないという証。どうして俺はこんな素人を
…って、自分で自分が信じられない…そう思ってるんでしょうね。

「…知ってるわよ、何だって。いい歳のクセに、万年ハタチだとバカ言ってるコトとか、美女と見たらすぐもっこりするコトとか」「ふぅ~ん…?」「悔しいケド仕事は超一流なコトとか、食べ物に関しては、質より量。胃に入るなら、ある程度のモノなら文句は言わないコトだとか」「へぇ~…?」"それだけ…?"と、口にしなくてもわかる意地悪な視線。にやにやと、からかいの笑みを浮かべてるのが悔しくて。小さく息を吸って息を整え、私は恭しげに最後の切り札を口にした。「小さい時の飛行機事故がもとで記憶が無いコトとか…リョウって名前を、海原につけて貰ったコトとか」「…っ!!」

飛行機事故、そして海原という名前が出た途端、漆黒の瞳がいっそう深みを帯び、細く鋭い視線をよこす。教授やかずえさんからあらかた聞いてはいたんだろうケド、リョウにとって、己のアイデンティティの一番重要な位置を占めるふたつのキィワードを私が告げたコトによって。今まで半信半疑だった"私"という存在を、否が応でも認めざるをえなくなったみい。「…ふっ…。どうやらホントに、俺のパートナーらしいな」軽く俯き、悔しげに前髪をかきあげる姿が妙に色っぽくて。こんな時なのに、思わずドキリとしてしまった。

「…ようやく信用してくれたかしら」「…あぁ。まだ信じられねぇが…"そこ"まで知ってるとなると、認めるしかないだろ」その言葉に、ふぅと肩から力が抜ける。「しかし、何だって俺は…」私の視線に気付いたのか、途中で口をつぐむケド。みなまで言わずとも、その思いは十分過ぎるほど、よくわかる。"何だって俺は、キミみたいな素人をパートナーにした?""何だってキミみたいな素人に、今まで多くを語らなかった'過去'を教えなければならなかった?"リョウの胸の内に渦巻く思いが、手に取るようにわかる。だってそれは、リョウを知る人、みんなに言われてきたコトだから。あなたみたいな素人が…と、幾度となく蔑みの言葉と視線を受けてきた。それでも私が傍にいるコトを認め、パートナーと名乗るコトを、リョウが認めてくれたから…。だから私は、そんなリョウの傍にいたいの。リョウが"私"という存在を選んでくれたんだから…その気持ちに、精一杯応えたいの。

「…それで?俺はどうすりゃいいのかな?」「…へっ?」「記憶にあやふやなトコロはあるが、身体はいたって健康だ。自慢のもっこりだって、準備万端」"何なら試してみる?"とふいに甘い瞳で囁かれ、こんな時なのに胸が高鳴る。「バカ言ってんじゃないわよ!」と、小突いてやれば「…ってぇっ!!香ちゃん、顔はかわいいクセに、意外と暴力的なんだ。かわいく恥じらうのはOKだケド、男に手えあげるのはNGだよ。女の子は損するだけ」"覚えときな…?"と、ウインクされて。普段のリョウでないやり取りに、すっかり毒気を抜かれてしまった。

「…とっ、とにかく、ケガもたいしたコトないし、教授に話して、アパートに戻りましょ。どうせ依頼はそう入ってこないだろうし…しばらくは、自宅療養ってトコね」「自宅療養~?てコトは、香ちゃんが俺の不自由な身体を、手取り足取り、腰取りに加えて、もっこり取り~…」「ピンピンしてる健康優良児が、どの口でバカほざくかぁ~っっっ!!!」一応ケガ人だったというコトも忘れ、いつものようにハンマーを振り下ろすものの。思いがけず、会心の一撃をひょいとかわされてしまった。「…っと、危ね」「…!!」いつもらしいやり取りにうっかりしてたケド、リョウが普段のリョウではなかったコトに、今更ながら気づかされる。

「へぇ~素人にしちゃ、なかなかやるモンだな」「…素人…」会心のハンマーをかわされたばかりか、普段、自分では十分にわかってたハズなのに、リョウの口から素人(そう)と言われたコトがショックで、しばし、言葉をなくしてしまう。ううん、素人なのはホントだし、ハンマーだって、リョウならホントは、ちゃんとかわせるハズ。リョウ程の男がハンマーの餌食になってたのは、私に付き合ってただけなのよ。私なんて結局は、リョウにとってパートナーでも対等でも何でもない、ただの足手まといなだけなんだわ…。

普段見ないようにしてたコトをあからさまに目の当たりにさせられて、瞬時言葉をなくしてしまう。でも、そんな胸にわだかまる思いをリョウに伝えるワケにもいかなくて。一抹の寂しさを胸に抱えたまま押し黙っていたけれど、気付けば視界がふいに揺らぎ出して。「…っ!!くっ…車の支度してくるから、リョウは教授にひとこと言ってきてね?」「…おい…かお…?」異変を察知したらしいリョウが呼び掛けるのを背に聞きながら、渦巻く感情と、それに伴う表情(かお)を見られたくなくて、足早に病室を後にした。

今まで普通にしてきたコトが、まるで砂で出来たお城みたいに、さらさらと足元から崩れていく。リョウと暮らしてきたコトも、リョウのパートナーとしてきたコトも。すべては夢か幻だったのかもしれない。銃もまともに撃てない、己の身も満足に守れない。そんなのプロとは言えないわよね。そんなのリョウには、足手まといな存在だけよね…。至極当たり前のコトなのに、今更実感するリョウとの壁。普段何気ない暮らしの中で、何等気にせず過ごしてきたケド。やっぱりリョウと私じゃ、合わないの?やっぱりリョウと私じゃ、住む世界が違うの?リョウと…一緒にいちゃ、いけないの…?駐車場まで走り抜け、キィを回して運転席に滑り込み。誰もいないのをいいコトに、零れる涙を隠すことなく。あふれる心の叫びを隠すことなく、泣き続けた。
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【2010/03/31 20:24】 | 未分類
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