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…コン、コン…
不意に耳元近くに響く音に驚いて顔を上げれば、運転席の外に立つリョウの姿。いつものとおりジャケットを羽織り、左手をけだるげにポケットに突っ込みながら。開いた右手で、運転席のウインドウをこつりと叩く。そんな姿でさえ無性に愛おしくて、この姿を見られなくなる…離れなければいけなくなると思ったら、きゅうと胸が締め付けられるような痛みが走った。「…ど、どうしたの?教授、帰っていいって…?」頬を流れる涙をくいと拳で拭い、すんとひとつ、鼻をすすって声を調えてから外に出る。まだ少し冷たさの残る外気が、涙の跡をひんやりと撫でていくのが悔しくて。今度はごしごしと拳で拭った。

「…悪かったな」たったひとつ、小さく呟かれた言葉。いろんな意味が込められてるのだろうケド、それが何を意味するのか…記憶のあやふやなリョウをこれ以上戸惑わせてもしかたないので、ふるふると首を振る。「ううん…大丈夫。何でもないから」「いや…俺が悪かった。お前を不安にさせちまったからな」「…え…?」そこにあるのは、少し照れたような、気まずげな表情(かお)。その甘さを含んだ視線に、思わずとくりと胸がなったけど。ううん、そんなコトより、今、私のコト、"お前"って言った?それに何だか、さっきまでのよそよそしい、他人行儀な堅苦しさが無くなって。そう…何だかまるで、いつものリョウのような…。

「俺ともあろう者が、階段から転げ落ちて記憶を失うなんざ…ったく。シャレにもならねぇ」「…リョウ?もしかして記憶…」「…あぁ。すっかり元通り。俺は万年ハタチのもっこりリョウちゃん♪で、お前は、鬼より恐いハンマー使いのパートナー…だろ?」にやりと笑う、嫌味なまでのその笑顔は、まごうことなく、いつものリョウの"それ"で。その憎たらしいまでの自信満々な笑顔に、我を忘れ、思わず飛び付いてしまった。「リョウ…っ!!よかった…よかった、リョウ…っ!!」

「悪かったな、心配させて」「よかった…でも、ホントにもういいの?」「あぁ。お前がしかめっつらして逃げ出してったんで、すっかり目が覚めたわ」「しかめっつらって…!!」「まぁーったく、恐かったぜぇ?まるで鬼みてぇな、すっげぇ形相でさ」肩をすくめ、大袈裟に両手をあげてみせるケド。そんなおちゃらけたポーズのあと、ふいにくしゃりと頭を撫でられた。「よりによって、今日この日にこんなコトになるなんて、な。…すまん」頭を撫でる手つきは限りなく優しいのに、その瞳には一抹の憂いがあって。そんなリョウは見たくない、悔しいくらいに自信満々なリョウが見たいと、首を振る。「ううん…いいの。元のリョウに戻ってくれたなら…それでいいの」

「ばぁーか。無理すんなって。"よくも私のコト忘れたなっ!!"って、素直に怒りゃいいんだよ」「そんな…」「でも、まぁ…あれだな」「…?」私の髪の毛をくしゃりと一度、かきまぜて。その手を躊躇しながら、己の口元に持っていく。「…お前の涙にやられたよ。正直、あれで目が覚めた。さすがは俺のパートナー…だな」照れ臭そうにそう言って、すっと細めたその漆黒の瞳から、優しくやわらかな視線を送られた。「リョウ…っ!!」

パートナーとして、認めてくれるの?これからもずっと、リョウの傍にいていいの…?「…悪かった」再度、ぽつりと呟くような謝罪の言葉。それが私という存在を忘れたコトへの謝罪なのか、先程、私をひどく傷つけた言葉への"それ"なのか…は、もう、どうにでもよくなって。リョウが私という存在を忘れてしまう…なんて最悪の誕生日なんだろうと思ったケド。でも、リョウが私をパートナーとして認めてくれてるなら…傍にいるコトを許してくれるのなら。もう、何もこわくなかった。それだけで、もう十分な誕生日のプレゼントだった。「…ったく…しょうがないわね」あふれ出てきそうな涙を指先で拭いながら、すんと鼻をすすって笑顔を見せて。渋々という体で承諾のセリフを吐いて苦笑してみせれば、照れ笑いしたリョウの顔とぶつかって。お互いくすりと、笑みをこぼしあう。「おかえり、リョウ」「…ただいま、香」
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【2010/03/31 20:24】 | 未分類
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