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春もベストシーズン。仕事の区切りもついたから、たまには二人で息抜きしましょうと、私から誘った夜桜見物。…なんて、名目は結局のトコロ、何でもいいの。署の連中にも内緒な二人だから、誰にも邪魔されず、槇村と一緒にいられるのなら。それだけで、その理由は何でもよかったの。

二人一緒に歩くのは目立つから、と、一足お先に退署したのは私の方。警視庁の月とスッポンなんて、そんな陰口叩かれてるのは知ってるケド。私は二人のコト、公にしてもよかったのに。「娘を奪った男として、四六時中警視総監から睨まれたらたまらない」なんて、槇村が言うモンだから。二人の仲は、まだ誰にも内緒。「まぁ、そんな意固地なトコロが好きなんだけどね」なんて、誰に語るでもなくポツリと呟いて、くすりと笑った。

待ち合わせは、新宿の外れにある穴場的スポット。いつだか見回りの最中に見つけた公園なんだケド、街中から外れた一角のせいか、街の名所たる新宿御苑に客足を奪われがちなせいか。いつ見てもあまり人気がないのが幸いだった。

近くのデリカで簡単なおつまみを買い込んで、公園のベンチに腰を下ろす。待ち合わせまでまだ少しあったので、手鏡を出して身嗜みの最終チェック。いつも事件に追われて殺伐とした姿しか見せてないから、こんな時こそしっかりしたいと思うのが乙女心ってモノでしょ?乱れた髪を手ぐしで整え、はがれかけてたルージュを派手にならないよう塗り直す。見上げる桜と勝負する気なんて更々ないケド、好きな人には、いつだってきれいな自分を見て欲しいと思うもの。当然…でしょ?

くすりと笑いながら手鏡をしまい、ゆっくりと夜の闇を纏い始めた空を見上げ。このところの日和に満開となった桜の枝ぶりに、目を細めた。でも、待てど暮らせど、待ち人・槇村秀幸は姿を見せず。まだ弱冠の冷たさをまとう春の夜気に身体を震わせ、襟元のストールを深くした。「帰り掛けに、誰かに用事でも言い付けられたのかな。要領悪いものね…ふふっ」口元まで被ったストールの中で、くすりと忍び笑い。今まで、こんなにも心惹かれる人はいなかったから。こうして好きな人を待つ時間は、苦でも何でもなかったの。

風にはらはらと散り始めた花ふぶきに目をやっていたトコロ、ようやく槇村が息せき切ってやって来た。「…すまんっ!!冴子」走ってきたせいか、いつものよれよれのコートが、さらに着崩れ。額に降り懸かった少し伸びかけの前髪が、汗でぺたりと張り付くのを、うるさそうにかきあげる。そんなだらし無い姿まで好もしいんだから、惚れた弱みは何とやら…ね。「お・そーいっ!!何分待ったと思ってるの?」ホントはそんなコト、カケラも思っちゃいないクセに、強がって拗ねてみたり。長女として何かと我慢と期待を強いられてきたせいか、こんな風に甘えを含んだワガママを言える相手の存在が限りなく嬉しくて。そして…何だかちょっぴり、くすぐったくて。

「すまん…今日の桜、キャンセルにしてくれ」「…え?」見れば走って来ただけじゃない、何だか切羽詰まった顔をしてて。「何か…あったの?」「妹が…香が」「香さん…?」警察学校時代からの仲だから、彼の家庭のコトは聞いている。お母様を早くに亡くされたコト、警察官だったお父様が殉職されたコト。高校生の妹さんが一人いるケド、実は血の繋がりはないってコトも。いくら同期とはいえ、込み入った家庭の事情まで明かすようなコトは稀。だからココまで打ち明けてくれたってコトは、私のコト、少しは信頼してくれて…。身近な者として、許されてるのかな…って。そんなちょっとのコトが、たまらなく嬉しいの。でも…。

「香さん…どうかしたの?」「あぁ。大家さんから署に電話があって、熱出して倒れたらしいんだ」「まぁ…」「普段は健康が服着てるようなヤツなんだが、時々無理して、イキナリぶっ倒れちまうんだ。無茶すんなとは言ってるんだが…」苛立だしげに唇を噛むけど、その目に浮かぶのは心配の色。心はもう、香さんの元に飛んでしまってるみたい。「兄妹二人きりだろ?俺に迷惑掛けないようにしてるのがわかってるから、俺も強く言えないんだが…」そう言って、キリと爪を噛む。みっともないから止めようとしてるんだ…って、言ってたケド。なかなか直らないそのクセが、香さん絡みだというのが、何だか胸にチクリと刺さった。
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【2010/04/14 17:19】 | 未分類
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