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日々の生活、サイト更新、趣味愚痴その他をつらつらと。
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「あ…」見上げれば、満開を迎えた桜が早くも散り急ぐように風に舞っている。そのきれいな花ふぶきのスクリーンの向こう側から、一人の男がこちらへと、息せき切って向かって来た。「…悪い…遅れた」背を丸め、膝に手をつき、ぜいぜいと息を荒げる姿が珍しくて、思わずくすりと笑ってしまった。

「どうしたのよ、リョウ。そんなに息せき切って。あなたらしくないんじゃない?それに…香さん、は?」呼ばれた男は額に張り付く前髪を忌ま忌ましげにかきあげて、じろりと漆黒の瞳でにらみを返した。「…ったく…何だって俺がこんなコト…」「…え?」「悪いが、今日の花見はキャンセルだ。香のヤツが、熱出しちまってな」「まぁ…」「こないだから熱っぽそうな顔してたんだが、あのバカ、寝てろったって言うコト聞きゃしねぇ。今朝も真っ赤な顔して弁当こしらえて…結局、ダウンしやがった」「香さん、今日のお花見、楽しみにしてたものね」今日はいつもの面々でお花見をしようというコトになって、仕事の関係で参加を危ぶんでた私もどうにか合流。会場に行く前、ココで待ち合わせをしていたのだ。

「んで、せっかく作った弁当だから、せめてみんなで食ってくれ、とよ」ほい、と手渡されたのは、かなり大きめのバスケット。中を覗けば、彩りよい散らし寿司に、菜の花の白和えをはじめ。唐揚げやらサラダやら、だし巻き卵やらがギッシリと。まさに"これぞ花見弁当"という感じ。「これだけ作るの…大変だったでしょう」「あぁ。だるそうな身体してたから、しょうがなく昨日は買い物つきあってやれば、この有様だ。…ったく、自分の身体の管理くらい出来んのかね、あのバカ」そう言う口ぶりは至って忌ま忌ましそうなのに、その視線はチラチラと元来た方…彼女が眠る、自宅アパートの方へとさまよって。心配してる様子が手に取るように伝わってきた。

「…わかった、これは預かっとく。みんなには、そう伝えるわね」「あぁ、よろしく頼むわ」言うが早いが、踵を返して。今にもまた駆け出して行きそうなその背中が、思い出したようにピタリと止まって、やおらこちらへと戻ってくる。「…なぁに?忘れ物?」と、首を傾げる私の顔に、そっと指を伸ばし。耳元の髪一筋を、そっとはらった。「…っ」何気ないコトなのに、珍しく肌に触れたリョウの体温に、思わず胸がトクリと音をたてれば。「ほら…花びら」と、目の前に、無骨な指先で摘んだ一枚の桜の花びらを見せてよこした。「…あ…」あまりに突然のデジャ・ウ゛に驚きつつも、それが自然の習いのように、両手でお椀を作って受け止める。

「…あ、ありがとう」どぎまぎしながら、形ばかりの礼を述べる私に、件の男はにやりと笑う。「ふ…花びらが似合うなんて、一応お前も、女だったんだな」「何ですって?!」せっかく胸をときめかせたのも、一瞬で。あまりな言い草に掴みかかろうとすれば、すんでのトコロで逃げられた。「んじゃぁ、俺は口うるさいガキのお守りすっから、みんなで楽しんでこいよ」そう言って、にやにやと楽しげな笑みを浮かべながら立ち去る後ろ姿は、どこか楽しそうで。彼女の具合を気に掛けつつも、ホントは誰にも邪魔されるコトなく、二人でいられるコトが嬉しいみたい。

「まったく…あまのじゃくなんだから」ぷぅとふくれつつ、見送る背中。ひと昔前の"あの人"のそれとは大きさが違うケド、花びらの舞う中、それを切なく見送る私は同じ立場で。その理由の大元たるのが、また同じ一人の女性であるコトに…苦い笑みがこぼれるのを止められず。「結局香さんには、どうしたって負ける運命…なのかしら?」勝ち負けがどうというワケじゃないけれど、二人の男の背を見送るのが、共に一人の女性によって…という偶然を、偶然というコトバで片付けていいものかと、しばし考えてみたり。

とはいえ、どうこうなるものでもなく。「でも…うだうだ考えたトコロで、何もはじまらないのよね」という結果に落ち着いた。通りを行く車のミラー反射に眩しくて目を細めれば、麗らかな春の陽射しがいっぱいに降り注ぎ。自然と心が和んでいく。何だかもう、色々考えてたコトが、バカみたいになってきた。「それに…天下無敵のリョウだって、どうしたってあなたには勝てないもの…ね?」くすりと笑いながら愛用の手帳を開けば、パウチされた桜の花びら。あの時の花びらは、槇村亡きあとも、いつも私の傍にいた。「今までも、そしてこれからも、ずっと…ね」栞代わりのそれに、軽いキスをひとつ落として。リョウから受け取った花びらを、掌の上でふぅと吹き飛ばせば。春の穏やかな風に乗って、それは他の花びらたちとともに、ビル街の奥へと飛んで行った。

それらを見送って、思い出したようにガードレールから腰をあげる。「さて…と。せっかくの香さんの心づくし、大事にいただかなくちゃ」愛情いっぱい詰まったバスケットをよいしょと握り直して。ファルコンをはじめ、いつもの面々の待つお花見会場へと、花ふぶきの中、一人、歩き出した。
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【2010/04/14 17:20】 | 未分類
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