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「たらいまぁ~」桜の花も満開の、のどかな春の昼下がり。ドコもかしこも花見をしようってぇ家族連れやカップルばかりで、日課のナンパも思うようになりゃしない。美樹ちゃんが留守にしてるんじゃ、タコの顔見ながらコーヒーってのもいけ好かず。仕方なしといつもより早目にアパートに帰ってみれば、意外にも、香の姿は見当たらなくて。ため息まじりにコーヒーをいれ、一人、リビングのソファにどっかと腰をおろした。コーヒーを一口、二口。開け放たれたベランダから降り注ぐ穏やかな春風に、思わず欠伸。情けねぇやと、テレビをつけようとテーブルのリモコンに手を伸ばして、重ねられた新聞や雑誌の下から覗く、一通の封筒に気がついた。「…んぁ?何だ、こりゃ…?」

宛名も差出人名もない、真っ白な封筒。それほどの厚みもなく、せいぜい中身は1、2枚。特に封印されてるでもなく、開封された形跡もないから、このままポストにでも放り込まれたんだろう。さて、どうしたモンかなと、ぺらぺらと振り回してみるが、やはり気になり、中身を取り出せば。予想どおり、封筒と同じ真っ白な便箋が2枚、几帳面に折られていた。誰に気負うワケでもないが、多少の後ろめたさを感じて周囲をきょろと見回して。誰もいないのを確認して、四つ折された便箋を開いていった。

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はじめまして。突然のお手紙、さぞ驚かれたでしょう。ご無礼をお許し下さい。

実は街であなたをお見掛けし、恥ずかしながら一目惚れしてしまいました。雨の日も風の日も、みんながけだるげに歩く暑い夏の日も、凍えるような北風の吹く冬の日も。あなたはいつも明るい笑顔で、笑っていましたね。それをお見掛けする度に、私も頑張らなきゃと励まされました。仕事がうまくいかなくて落ち込み気味の時など、何度その笑顔に励まされたかわからない程です。そしていつしか、その好意を押さえられなくなってしまったのです。

背の高い男性と親しげに歩かれているのを何度かお見掛けしましたが、ひょっとしてお付き合いされている方でしょうか。口喧嘩したりして歩かれているのを拝見し、それが私の杞憂であって欲しいと願ってやみません。どうかお願いです。一度お食事をご一緒させていただけませんか?直にお話させていただく機会を与えて貰い、私という人間を少しでも知っていただけたらと思います。

〇月〇日、夜7時。いつもお見掛けする新宿駅東口にてお待ちしています。仕事が終わり次第駆け付けます。その日、あなたの笑顔と向き合えることを祈っています。

柳沢雄二

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「ふ~ん…?」几帳面に折られた便箋に、筆圧も弱く、やたら畏まった文面。そこから察するに、香好みの、線の細い優男系なのは間違いなさそうだ。だいたい一目惚れとか言っといて、春も夏も秋も冬も、と。結局一年間、香を盗み見てたってコトじゃねぇか。それって男として頼りなくねぇか?情けなくねぇか?この手紙にしたって、宛名も何も書いてないってコトは、香の後つけて、アパートを確かめたってコトだろ?下手すりゃ一歩間違えて、立派なストーカーじゃねぇか。そいつがおこがましくも、一緒に食事だと?バカ言うのもたいがいにしろってんだ。

鼻息荒く、四つ折した便箋を乱暴に封筒に押し込む。あまりに胸クソ悪く、見えないストーカー野郎の代わりにと、件の手紙をギロとにらみつけてみるものの。しかし…と、小さくため息をこぼしてしまう。「でも、まぁ…ある意味、うらやましいヤツだよな」言葉を交わしたコトすらないが、男として香に惚れてると、キチンと断言出来るヤツ。そして面と向かい、その胸の内を香に伝えようとしているヤツ…。「ぎくしゃくしたくなくて、みっともなく逃げまくってる…俺の方が情けねぇか」

今の今まで、見えない野郎にムカついてたクセに、己を振り返って急にトーンダウンする情けなさ。たとえ線の細い優男だろうが、こっそり後を付け回すストーカーまがいの男だろうが。香の気持ちを知りつつ無視し、自分の気持ちにフタしてグズグズしてる俺と比べりゃぁ…はは。大差ねぇかもしれねぇな。

さっきまでの怒りはドコへやらと、心の内に広がる、やる瀬ない感情。この手紙がココにあったたコトは、香はもう、すでに目にしているワケで。別に俺がとやかく言うコトもないし…言える立場でもないし。香がこのストーカーまがいの野郎に会いに行こうが、俺にゃぁどうするコトも出来やしないんだ。はぁ…。日頃、男女だの暴力女だの、世界で唯一もっこりしない女だ、などと。自分が撒いてきた種とはいえ、それで香が自信を無くし、自分を女として認めてくれる野郎に惹かれてくのは…まぁ、自然の摂理としちゃぁ文句は言えなくて。結局は俺自身が撒いた種か…と、ソファに寝そべり。のどやかな青空にほっこりと浮かぶ、真っ白な雲を見上げて。そのやる瀬ないまでに白い綿雲の流れていく様を、ぼんやりと目で追った。
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【2010/04/20 21:32】 | 未分類
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