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「ただいまぁ~…って、あらやだ。リョウ、帰ってたの?」誘われる春風の柔らかさに眠気を受け、恥ずかしながら、いつの間にかソファでうたた寝しちまったらしい。買い物でもして来たのか、大きな買い物袋を抱えた香が、のんきそうな顔を覗かせる。「…おう。お前こそ、買い物か?」あの手紙の野郎のコトなど、微塵もその気配に出さない香に胸がざわめく。わざわざ俺に話すコトでもないってコトか?お前にとって、俺はそれだけの存在なのか…?渦巻く思いとは裏腹に、それを口にする勇気はなくて。リモコンを取るフリをして、わざとテーブルの手紙を床に落とした。

「うん。友達が来てたんで、駅に送りがてら伝言板と、夕食の買い出しにね」「友達…?」「うん、こないだ同窓会で会って、相談があるからって…あら?」開け放たれたベランダから吹き込む風に、そう重くない手紙がふわりと舞って。そのまま香の足元へと運ばれていった。「あらやだ。由布子ったら、肝心の手紙、忘れてったわ」「…へ?」足元に不時着した手紙を取り上げて、ため息まじりに傍らのバックに捩込んで。取り出した携帯をピピと弄って、相手が出たのを確認してまたため息をついた。

「もしもし、由布子?今、ドコ?あぁ、もう着いちゃったんなら、仕方ないわね。肝心の手紙、ウチに忘れてったわよ?大丈夫?まぁ、日にちと時間だけ覚えてるならイイけど…あっ!!名前は?そうそう、柳沢さん。あらやだ、ちゃんと覚えてるのね。案外由布子も、期待してるんでしょ。ふふ…冗談よ。うまくいくよう、祈ってるわ。あとで結果、教えてね。うん…それじゃ」肩をすくめ、くすりと笑みをこぼしながら携帯をバックへとしまい込んだ。

俺の知らない"同級生"との会話。ジョークを交え、楽しそうに笑う俺の知らない香を見せられて、軽く嫉妬してみたり。だが、まてよ。今の会話からすると、もしかして…?呆気に取られる俺に気付いた香が、あぁという顔でくすりと笑って。買い物袋の中のものをテーブルに仕分けしていきながら、「あのね」と口を開いた。

「あのね?さっきまで高校のクラスメイトだった由布子って子が来てたんだけど。こないだの同窓会で、私が探偵まがいのコトしてるっていったら、気になるコトがあるって、相談されちゃったのよ」「へぇ~」この展開、もしかしてもしかしなくても、やっぱり…?「通勤時に、いつも誰かの視線を感じるんですって。それが気味悪くて…って相談しに来ようとした矢先、その相手から手紙が着たらしいのよ」「ふ…ん」「後をつけられたのか、マンションの郵便受けに入ってたそうよ。宛先もなく、差出人もない手紙。でも中を見たら、由布子に一目惚れした男の人からのラブレターだったのよ」「はぁ…なるほど、ね」

先程の電話からある程度予想してたとはいえ、明確な答えを貰って突如我が身に降り懸かる脱力感に、声も出ない。まだ見ぬへなちょこストーカー野郎に嫉妬した勢いが勢いだっただけに、それが悲しき勘違いだと気付いたあとの気まずさといったら、どうにもならず。とりあえず、件の手紙が香宛じゃなかったコトだけ、ヨシとしようじゃないか、という結論に辿り着く。「…ん、で?その由布子ちゃんは、ヤツと会う気なのか?」手紙が香宛だと思い込んでただけに、その先が気になって声を掛ければ。大きな瞳をぱちくりとしばたいて、あら珍しい、こんな話しに興味あるの?という意外な顔をされた。

「ん~…ちょっとストーカー気味で怖かったみたいだケド、一目惚れされたって言われて、気分は悪くないみたいよ?」「んじゃ、付き合うのか?」確かに惚れられたってのは気分いいだろうが、それだけで見たコトもないヤツに会うのかよ。付き合ちまうのかよ、と、軽い苛立ちを感じたり。「あぁ、それはないみたい。由布子、彼がいるのよ。同じ職場の人で、いつもは口喧嘩ばかりなんだケド、お互いをストレートにぶつけ合える、いい関係なんですって。ふふ…のろけられちゃったわ」口元に指を添え、その時を思い出してか、くすくすと楽しそうに微笑む香。「でもね?こうして手紙までくれたのを、無視するのも悪いでしょ?だから一度会って、付き合ってる人がいるって、キチンとお断りするみたいよ」「へぇ~…」

話しはこれでおしまいとばかりに、テーブルに広げた食材をよいしょと抱え、香はキッチンに向かってく。その背中にふぅと安堵の息がこぼれるのを止められなくて。頭をがしがしと掻きむしりながら、思わず苦笑。「勘違いだなんて…ったく。俺としたコトが…な」コトの真相を知るまでの間、どれだけ自分が苛立ってたかを振り返って、また苦笑。

そこまで気になるなら、手っ取り早く"自分のモノだ"、と。周囲にも、当の本人たる香にも公言しちまえばいいモノを。「俺にだって、出来るコトと出来ないコトがあるんだよー…っと」誰に言い訳するでもなく、ポツリと一人、呟いて。翻るカーテンの向こう、夕方にはまだ早いのどやかな空に微笑んで。「ふわぁぁぁ~…」と、大きく欠伸をひとつして。そのまま安堵の笑みをこぼしながら、ソファにごろりと身を投げ出した。
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【2010/04/20 21:32】 | 未分類
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