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あたたかな陽射しの中の、アイロン掛け。お日さまの匂いをいっぱいに含んだ洗濯物たちは、見てるだけで幸せいっぱい。そのしわしわの姿さえ、無防備で愛おしくてたまらない。でも、やっぱりきれいにしてあげないと、だよね。そんなコトを考えながらくすりと笑って、心地よい風が吹き込むのを感じながら、リビングのテーブルに置いたアイロンにスイッチを入れた。

シューッというスチーム音を合図に、まずはハンカチやらの小物類を。よれた皺がピンと張る気持ちよさは、見ていて何とも言えない感じ。続いて大物たちをと、アイロン台の上に広げてく。リョウはとある企業に潜入捜査中だから、必然的にYシャツがいっぱい。ヤツのクローゼットの中身まで把握してるワケじゃないケド、あれで案外お洒落なの。細かなピンストライプのものや、タブカラー、シンプルなドレスシャツなど、そのバリエーションは幅広く。いったいドコにあったのやらと思う程だケド、いつ何時、仕事で使うかわからないから、数あるのに越したコトはない。でも…そのやけに目立つ長身がスーツをまとった姿は、悔しいケドサマになり過ぎ。それを華やかなOLさんたちの目にさらしてるのかと思うと、知らず、胸がチクリと痛んだ。「いくら悩んだトコロで、仕事だもんね」ふぅとため息。それも今日明日でカタがつくと言われてるし、こんな杞憂ともサヨナラだと思えば、肩の荷も下りていった。

それにしても、リョウって大きい。常に隣にいて、その背格好は見慣れてるハズなのに。こうしてシャツを広げてみただけでも、その大きさが見て取れる。人より幾分長身の私より、頭ひとつ抜きん出てるんだから。世の女の子たちから見れば、それだけでかなりのモノなハズ。一昔前の三高とかじゃないケド、あの長身は魅力よね。あれで結構物知りだし、黙っていればそれなりの整った顔立ち。そしてその口から歯に衣着せぬ甘いコトバを吐かれた日には…すべての女の子たちは、ヤツにイチコロ。その相乗効果を知っててやってるようだから、余計に腹が立ってしかたないの。

「まったくもう…困ったヤツなんだから」持ち主のおでこに見立てた広いそれをピンと弾けば、瞬間、小さなシワが走って消えた。ふふ…やっぱりYシャツは、こうでなくちゃ。「それにしても、大きい…」最後の一枚にアイロンを掛け終え、コンセントを抜き。熱が冷める間にと畳み掛けて、思わず手を止め、見惚れてしまう。そして誰もいないのをいいコトにふわりとシャツを羽織り、一回転。「うっわ、だぶだぶだわ」裾は膝頭をかすめる程で、袖口は三つ折りくらい出来そう。「ふふ…ちょっとしたワンピースって感じよね」くるくる回れば、ひるがえる裾先。その洗いたての柔らかさと、お日さまの匂いをたっぷり含んだ心地よさが何とも言えず、幸せな気分にさせてくれる。ひととおり回り終えたトコロで、あまりに子供じみてたかな、と。誰が見てたワケでもないのに、ちょっぴり苦笑。ふぅと一息ついてしゃがみ込み、ゆっくりと日の傾き始めたカーテンの向こうを見ている内に、まぶたが自然と閉じていった。


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「帰ったぞー…って、香ぃ?いないのかぁ?」玄関の扉がガチャリと閉まり、遠慮もなくドスドスと床を響かせる足音に目が覚めた。周囲を見回せば、すでに日はとっぷりと暮れて。開けっ放しだったベランダからは、昼間よりはまだ幾分の冷たさを孕んだ風が吹き込んでいた。「いっけない、いつの間にか寝ちゃったんだ…」時計を見れば、飲み歩きばかりのヤツにしては珍しく早いご帰還。いつもは困らせてばかりなのに、こんな時に限って早く帰ってくるなんて、間が悪いったらありゃしない。ふぅとため息をつくものの、声の主は返事を求め、どんどんこちらへと近付いてきた。

「おーい、香ぃ?」「はーい。ごめんね?ちょっとうたた寝しちゃって、夕食、まだなのよ。すぐ支度するから、悪いケドしばらくテレビでも見て…」そう言いながらリビングを出れば、向こうから来たリョウと廊下でご対面。とたん、リョウの表情(かお)が一変した。「香…おま…っ?」「…へっ…?」目をぱちくりとしばたくリョウの視線をたどって己を見れば、先程のアイロン掛けの、そのままに。リョウのシャツを羽織ったままなのに気がついた。アイロンが発するスチームの熱とこのトコロの暑さを考慮して、ショートパンツにキャミソールという格好をしていただけに。ワンピースとも見紛うぶかぶかのシャツを羽織った姿は、まるで素肌にシャツ一枚だけにしか見えなくて…。

「…ちっ、違うのよ、リョウ。これはちょっと、ほつれがあったから確認を…」慌てて言い訳してみるものの、時すでに遅く。リョウの目の色が獲物を狩る、野生動物のそれになる。じりと迫られ、じりと退くが、すぐに壁へと追い詰められて。こんな危機的状況なのに、ネクタイに指を掛けて緩める様が色っぽい…なんて思っちゃうんだから、私ったらしかたない。「リョウちゃん、お腹ペコペコなの。いっただきまぁ~すっ!!」「いやぁ~っ!!」せっかくのスーツ姿も台なしの、口元にヨダレを垂らした、だらし無い男に襲われて。必死にあがいたトコロで逃げられるハズもなく、結局男の部屋に拉致監禁。ようやく解放されたのは、前日にアイロン掛けをしたのと同じ頃だった。もう…もう二度と、リョウのシャツにアイロンなんか掛けてやらないんだからっっっ!!!///
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【2010/05/14 22:28】 | 未分類
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